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大阪地方裁判所 平成5年(ヨ)3927号 決定

債権者(甲事件)

松田敏昭

債権者(乙事件)

伊藤政宏

債権者(乙事件)

上室鐵四郎

債権者(乙事件)

佐藤淑久

債権者(乙事件)

竹田嘉一

債権者ら代理人弁護士

金子利夫

村田喬

在間秀和

債務者(甲乙事件)

大阪相互タクシー株式会社

右代表者代表取締役

多田精一

債務者代理人弁護士

俵正市

寺内則雄

小川洋一

主文

一  債権者松田敏昭が債務者に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

二  債務者は、債権者松田敏昭に対し、平成七年九月から第一審判決の言渡しまで毎月二八日限り、金三八万円の割合による金員を仮に支払え。

三  債権者上室鐵四郎が債務者に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

四  債務者は、債権者上室鐵四郎に対し、平成七年九月から第一審判決の言渡しまで毎月二八日限り、金二五万円の割合による金員を仮に支払え。

五  債務者は、債権者伊藤政宏に対し、金四五〇万円を仮に支払え。

六  債務者は、債権者佐藤淑久に対し、金三五〇万円を仮に支払え。

七  債務者は、債権者竹田嘉一に対し、金二〇〇万円を仮に支払え。

八  債権者らのその余の申立てを却下する。

九  申立費用は債務者の負担とする。

理由

第一申立ての趣旨

一  甲事件

1  債権者松田敏昭(以下「債権者松田」という。)が債務者に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

2  債務者は、債権者松田に対し、平成五年一一月九日から本案判決確定に至るまで毎月二八日限り、金五六万一六〇〇円の割合による金員を仮に支払え。

二  乙事件

1  債権者上室鐵四郎(以下「債権者上室」という。)が債務者に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

2  債務者は、債権者上室に対し、平成五年一二月一九日から本案判決確定に至るまで毎月二八日限り、金五〇万円の割合による金員を仮に支払え。

3  債務者は、債権者伊藤政宏(以下「債権者伊藤」という。)に対し、金九〇〇万円を仮に支払え。

4  債務者は、債権者佐藤淑久(以下「債権者佐藤」という。)に対し、金九〇〇万円を仮に支払え。

5  債務者は、債権者竹田嘉一(以下「債権者竹田」という。)に対し、金九〇〇万円を仮に支払え。

第二事案の概要

一  基本となる事実関係

1  債務者は、タクシーによる旅客運送事業を営む株式会社である。債務者には、組合員約六三〇名の全相互タクシー労働組合大阪支部(以下「全相労」という。)と組合員約八〇名の自交総連大阪相互タクシー労働組合(以下「自交総連」という。)があった。

2  (甲事件)

(一) 債権者松田は、平成四年三月一〇日、営業部長として債務者に入社し、平成五年一月以降は労務部長も兼務していたが、同年一〇月一日付で、部長職を解かれ、営業所長として池田営業所勤務となった。

(二) 債権者松田は、乙事件債権者らと共に、平成五年一一月七日、乗務員と非乗務員を含む組合員四七名の新大阪相互タクシー労働組合(以下「債権者組合」という。)を結成し、執行委員長に就任した。なお、債権者組合の組合員は、結成後まもなく約二〇〇名になったが、同月二四日、乗務員の組合が新相互タクシー組合として独立し、債権者組合の名称も、新相互タクシー非乗務員労働組合に変更された。

(三) 債務者は、平成五年一一月八日付で、債権者松田を懲戒解雇した。

3  (乙事件)

(一) 債権者伊藤は、昭和五八年二月、タクシー運転手として債務者に入社し、平成五年一二月一八日当時、豊中営業所次長であったもの、債権者上室は、昭和五六年、タクシー運転手として債務者に入社し、平成五年一二月一八日当時、運輸第二部第一課長であったもの、債権者佐藤は、昭和六二年三月、タクシー運転手として債務者に入社し、平成五年一二月一八日当時、運輸第二部第五課長であったもの、債権者竹田は、昭和五五年七月、タクシー運転手として債務者に入社し、平成五年一二月一八日当時、運輸第一部第一課長であったものである。

(二) 乙事件債権者らは、前記のとおり、甲事件債権者の松田と共に、平成五年一一月七日、債権者組合を結成し、債権者伊藤は執行副委員長、債権者佐藤は執行副委員長、債権者竹田は執行委員に就任した。

(三) 債務者は、平成五年一二月一八日付で、乙事件債権者らを懲戒解雇した。

(以上の事実は、当事者間に争いがないか証拠上明らかである。)

二  債権者らの主張

1  債権者らの解雇は、いずれも懲戒解雇であるところ、(1)懲戒事由が存在せず、(2)弁明の機会も与えられず、(3)不当労働行為であり、(4)解雇権の濫用であり、いかなる意味においても無効である。

2  保全の必要性

債権者らは、債務者から支給される給与によりそれぞれの家族の生計を維持してきたものであるところ、解雇後は、借財により口を糊してきたものであって、貯金は取り崩され、他に資産はない。

三  債務者の主張

1  債権者松田について

(一) 債権者松田は、解雇時、債務者の労働組合法(以下「労組法」という。)二条但書一号が規定する地位にあったものであって、債務者の役員待遇を受け、労働組合との団体交渉に使用者側交渉員として出席し、不当労働行為救済申立事件においては使用者側の補佐人として出席するなど使用者の利益を代表し、また、新賃金体系(会社管理制)試行の重要な使命を負って池田営業所長に命じられ、労務上の機密事項に接し、そのためにその職務上の義務と責任とが当該労働組合の組合員としての誠意と責任とに直接抵触する監督的地位にありながら、債務者の管理職である次長、課長に働きかけ、更にこれらの者をしてその影響力を利用し所属の職員及びタクシー運転手に働きかけ、平成五年一一月七日、債権者組合を結成し、執行委員長に就任した。

(1) 右行為は、外部からみると、債務者が、労組法七条三号の禁ずる支配・介入を大々的に行ったとみられるおそれのあるものであって、債務者の従業員賞罰規程六条一三号の「社外から指弾を受ける行為をし、会社の信用を著しく失墜させたとき」に該当する。

(2) また、右行為は、既存の労働組合からみると、労組法七条三号の禁ずる債務者の支配・介入であって、長年かかって築かれた労使間の信頼関係を破壊するものであり、また、会社内の労働秩序を乱すものであって(他の労働組合に所属する一般の乗務員は、債権者組合に所属する上司から差別的な取扱いを受けていると考えており、社内秩序は混乱している。)、債務者の従業員賞罰規程六条三五号の「会社内の秩序維持を著しく乱すような宣伝扇動を行ったとき」に該当する。

(3) また、右行為は、債務者の対外的信用を失わせ、労使関係の信頼を破壊し、会社内の秩序維持を著しく困難にするものであって、債務者の従業員賞罰規程六条三七号の「従業員としてふさわしくない行為をしたとき」に該当し、また、不当な組合員の勧誘行為は、「他人を教唆先導(扇動)しその該当する行為をさせたとき」に該当する。

(二) 債務者は、以上の理由により、平成五年一一月八日、債権者松田を懲戒解雇した。

2  債権者伊藤について

(一) 債権者伊藤は、債務者の労組法二条但書一号が規定する地位(豊中営業所次長)にありながら、平成五年一一月七日、債権者組合を結成し、副委員長に就任したうえ、同月中旬ころ、石橋営業所において、勤務時間中に全相労の組合員の吉崎正及び村上松人に対し、右組合からの脱退と債権者組合への加入を勧誘する等、再三にわたって、勤務時間中に同様の行為を繰り返したため、労組法七条三号の禁ずる使用者の支配・介入であるとして既存の労働組合の反発を買い、労使間の信頼関係を破壊し、会社内の労働秩序を混乱させ、社会的信用を失墜させた。

右行為は、債務者の従業員賞罰規程六条一三号の「社外から指弾を受ける行為をし、会社の信用を著しく失墜したとき」、同規程六条三五号の「会社内の秩序維持を著しく乱すような宣伝扇動を行ったとき」、同規程六条三六号の「会社内で許可なく組合活動をしたとき」、同規程六条三七号の「従業員としてふさわしくない行為をしたとき」あるいは「他人を教唆先導(扇動)しその該当する行為をさせたとき」に該当する。

(二) 債権者伊藤は、懲戒解雇されていた債権者松田を債務者の敷地内に立ち入らせてはならない旨の業務上の指示があったにもかかわらず、業務命令に反し、平成五年一二月六日午前八時三〇分ころ、同債権者を豊中営業所の事務所内に引き入れた。

右行為は、債務者の従業員賞罰規程六条二一号の「正当な理由なしに業務上の指示、命令に従わなかったとき」に該当する。

(三) 債務者は、以上の理由により、平成五年一二月一八日、債権者伊藤を懲戒解雇した。

(四) なお、債務者は、平成七年六月五日到達の書面により、予備的に懲戒解雇の意思表示をした(解雇事由は、債務者の主張書面(四)記載のとおり)。

3  債権者佐藤について

(一) 債権者佐藤は、債務者の労組法二条但書一号が規定する地位(運輸第二部第五課長)にありながら、平成五年一一月七日、債権者組合を結成し、副委員長に就任したうえ、同月下旬の早朝、運輸部事務所において、勤務時間中に全相労の餅田敏行ほか多数の全相労の組合員に対し、右組合からの脱退と債権者組合への加入を勧誘し、更に、同月二六日早朝、同事務所において、勤務時間中に全相労の組合員の神谷功に対し、右組合からの脱退と債権者組合への加入を勧誘する等、再三にわたって、同様の行為を繰り返したため、労組法七条三号の禁ずる使用者の支配・介入であるとして既存の労働組合の反発を買い、労使間の信頼関係を破壊し、会社内の労働秩序を混乱させ、社会的信用を失墜させた。

右行為は、債務者の従業員賞罰規程六条一三号の「社外から指弾を受ける行為をし、会社の信用を著しく失墜したとき」、同規程六条三五号の「会社内の秩序維持を著しく乱すような宣伝扇動を行ったとき」、同規程六条三六号の「会社内で許可なく組合活動をしたとき」、同規程六条三七号の「従業員としてふさわしくない行為をしたとき」あるいは「他人を教唆先導(扇動)しその該当する行為をさせたとき」に該当する。

(二) 債務者は、以上の理由により、平成五年一二月一八日、債権者佐藤を懲戒解雇した。

(三) なお、債務者は、平成七年六月三日到達の書面により、予備的に懲戒解雇の意思表示をした(解雇事由は、債務者の主張書面(四)記載のとおり)。

4  債権者竹田について

(一) 債権者竹田は、債務者の労組法二条但書一号が規定する地位(運輸第一部第一課長)にありながら、平成五年一一月七日、債権者組合を結成し、執行委員に就任したうえ、同月一〇日早朝、運輸部事務所において、勤務時間中に全相労の組合員の高橋忠義に対し、右組合からの脱退と債権者組合への加入を勧誘する等、再三にわたって、同様の行為を繰り返したため、労組法七条三号の禁ずる使用者の支配・介入であるとして労働組合の反発を買い、労使間の信頼関係を破壊し、会社内の労働秩序を混乱させ、社会的信用を失墜させた。

右行為は、債務者の従業員賞罰規程六条一三号の「社外から指弾を受ける行為をし、会社の信用を著しく失墜さたとき」、同規程六条三五号「会社内の秩序維持を著しく乱すような宣伝扇動を行ったとき」、同規程六条三六号の「会社内で許可なく組合活動をしたとき」、同規程六条三七号の「従業員としてふさわしくない行為をしたとき」あるいは「他人を教唆先導(扇動)しその該当する行為をさせたとき」に該当する。

(二) 債務者は、以上の理由により、平成五年一二月一八日、債権者竹田を懲戒解雇した。

(三) なお、債務者は、平成七年六月三日到達の書面により、予備的に懲戒解雇の意思表示をした(解雇事由は、債務者の主張書面(四)記載のとおり)。

5  債権者上室について

(一) 債権者上室は、債務者の労組法二条但書一号が規定する地位(運輸第二部第一課長)の地位にありながら、平成五年一一月七日、債権者組合の結成に参加したうえ、同月上旬、債務者構内において、勤務時間中に全相労の組合員の田中幹雄に対し、右組合からの脱退と債権者組合への加入を勧誘し、更に、同じころ、同事務所において、債権者松田と共に、勤務時間中に全相労の組合員に対し、右組合に対する脱退届と債権者組合に対する加入届を配付する等、再三にわたって、勧誘行為を繰り返したため、労組法七条三号の禁ずる使用者の支配・介入であるとして既存の労働組合の反発を買い、労使間の信頼関係を破壊し、会社内の労働秩序を混乱させ、社会的信用を失墜させた。

右行為は、債務者の従業員賞罰規程六条一三号「社外から指弾を受ける行為をし、会社の信用を著しく失墜したとき」、同規程六条三五号「会社内の秩序維持を著しく乱すような宣伝扇動を行ったとき」、同規程六条三六号「会社内で許可なく組合活動をしたとき」、同規程六条三七号「従業員としてふさわしくない行為をしたとき」あるいは「他人を教唆先導(扇動)しその該当する行為をさせたとき」に該当する。

(二) 債権者上室は、懲戒解雇されていた甲事件債権者松田を債務者の敷地内に立ち入らせてはならない旨の業務上の指示があったにもかかわらず、右指示に反し、平成五年一一月一九日、同債権者が本社のガレージ内でビラを配付しているのを黙認した。

右行為は、債務者の従業員賞罰規程六条二一号の「正当な理由なしに業務上の指示、命令に従わなかったとき」に該当する。

(三) 債務者は、以上の理由により、平成五年一一月八日、債権者上室を懲戒解雇した。

第三当裁判所の判断

一  はじめに

債務者は、債権者らが労組法二条但書一号が規定する地位にありながら、労働組合を結成し、組合活動をしたことを主たる理由として、懲戒解雇に付しているが、従業員賞罰規程(〈証拠略〉)にそのような行為を律する直接的な規定があるわけではない。労組法も、同法二条但書に該当するいわゆる自主性不備の組合の結成を禁ずるものではない。ただ労働委員会に不当労働行為の救済を求めたり、同法が認める民事・刑事上の免責が受けられないという不利益があるに過ぎない。本件の争点は、部長、次長、課長、営業所長の職にあった債権者らの具体的行為が、右賞罰規程の「社外から指弾を受ける行為をし、会社の信用を著しく失墜したとき」(六条一三号)、「会社内の秩序維持を著しく乱すような宣伝扇動を行ったとき」(六条三五号)、「従業員としてふさわしくない行為をしたとき」あるいは「他人を教唆先導しその該当する行為をさせたとき」(六条三七号)に該当するといえるか否かである。債権者らが労組法二条但書一号が規定する地位にあったか否かは、重要な要素ではあるが、決定的なものではない。

二  債権者松田について

1  疎明資料(〈証拠略〉)によると、債権者組合の結成及び債権者松田の解雇に至る経緯は、以下のとおりであると一応認められる。

(一) 債権者松田は、労働運動の豊富な経験を買われて債務者に入社し、平成五年九月二九日まで、営業部長兼労務部長の要職にあり、役員待遇の辞令(ただし、役員報酬の支給はなく、取締役会へも出席をしていない。)を交付されていたものであって、労働組合との団体交渉に出席し、不当労働行為救済申立事件においては会社側の補佐人を務めていたほか、就業規則の改定作業にも参画し、賃金体系の重要な変更につながる会社管理制度の導入につき中心的な役割を担ってきたものであって、労務上の機密に接し、使用者の利益を代表する地位にあった(異例の厚遇である)。

(二) ところが、債権者松田は、同年六月ころになると、次第にオーナー等から疎んじられ、同年九月二九日をもって、部長職を解任され、池田営業所長(一〇月一日付)を命じられた。このころまでに、債権者松田が指導的な役割を果たしてきた会社管理制度を導入するための営業政策会議等も全く開かれなくなっていた。

(三) 債権者松田が配転を命じられた池田営業所は、新設の営業所であって(什器・備品や電話等も設置されていなかった。)、右配転は、表向きは会社管理制度の実験ということであったが、同債権者を主要なポストから外すための口実に過ぎず、傍目にも降格であることは明らかであり、文字通り、左遷であった(「池田営業所新設に伴う当面の方針(〈証拠略〉)」によっても、部長職を経験し、役員待遇であった者を配すべき職場ではない。同営業所は、債権者松田が解雇されて後は事実上閉鎖されている)。債権者松田の同営業所における実質的な職務は、同債権者の部下で労務課長の職を解任され、同営業所に配転された國俊之と二人で市場調査の名目で営業車に乗務することであり、およそ営業所長という名にそぐわないものであって、管理職的な権限はなにもなかった。なお、債権者松田は、発令の際、独立採算制をとる旨指示されているが、営業エリアや人員配置に照らすと、難きを強いることであった。

(四) ところで、債務者の管理職に対する人事については、同年四月に行われた部課長の大量の降格処分を契機として、管理職の間で恣意的であるとの不満が高まり、同年八月には、乙事件債権者らが中心となって、管理職や乗務員約一〇名と会合が開かれ、不平不満や問題点が話し合われた(債務者は、全くのオーナー会社であって、経営に関する重要な事項や人事に関する事項は、ほとんどオーナーである社長と専務が決定しており、部長、課長、営業所長といった肩書を与えられた者の権限は、極めて脆弱なものであった)。なお、債権者松田は、右会合に出席しておらず、声も掛けられていない。

(五) そして、乙事件債権者らは、同年九月一五日、労務部長であったとはいえ、もともとは組合活動家であって、労働者側の立場にも理解を示していた債権者松田の出席を求め、不平不満を聞いてもらうと共に、今後の活動について助言を求めた。これに対し、債権者松田は、労働組合結成による解雇を危惧し、ひとまず親睦会として集まりを続けるよう説得した(同債権者は、管理職の地位にある者が労働組合を結成することには不安を持っていた)。そこで、乙事件債権者らは、同年一〇月三日に親睦会の名目で賛同者を募り、集会を開くこととした。

(六) ところが、前記のとおり、債権者松田が部長職を解任され、池田営業所に配転されたところから、同年一〇月三日に開かれた親睦会名目の集会では、「債権者松田や國俊之はいずれ解雇される。明日は我が身だ。組合を作ろう。」という機運が高まり、同月中旬ころには、乙事件債権者らを中心として、労働組合結成の準備が進められ、同年一一月七日、債権者組合が結成され、同月八日、債務者に通知された。

(七) 債権者松田は、前記のとおり、少なくとも池田営業所へ配転を命じられるまでは、労働組合結成に消極的であったが(同債権者にとって、自らが組合結成に参加することは、職を賭する覚悟のいることであり、半生を賭けてきた労働運動家としての自負があったとはいえ、年齢や家計の状況等に鑑みると、逡巡して当然であった。)、部長職を解任されたこともあってようやく腹を括り、乙事件債権者らに請われ、債権者組合の結成と同時に執行委員長に就任した。

(八) 債務者は、労働組合結成の通知を受け取ると、直ちに債権者松田を懲戒解雇した。

2  債務者は、債権者松田が、「社外から指弾を受ける行為をし、会社の信用を著しく失墜させた」旨主張する。

確かに、債権者松田は、前記二1(一)のとおり、部長職を解任されるまで、単に労組法二条但書一号が規定する地位にあったというにとどまらず、労務部長として債務者の利益を代表し、労働組合との交渉に当たってきたものであって、労務関係上の機密にも接しており、そのような者が現職のまま労働組合の結成(しかも、乗務員が新相互タクシー組合として独立するまでは、管理職のみの組合ではなかった。)に関わることは、対外的にも対内的にも労組法七条三号の禁ずる使用者の支配・介入であるとの疑いを抱かせるものであり、場合によっては、信義にもとり、「社外から指弾を受ける行為をし、会社の信用を著しく失墜させた」といい得よう。

しかしながら、債権者松田が債権者組合の結成に関わったのは、前記のとおり、同債権者が部長職を解任された後であり、債務者が主張するような要職にあった時期ではない(役員待遇は、もともと実質を伴わないものであったが、それも事実上解任されたとみてよい)。池田営業所の所長という肩書は有していたが、前記のとおり、その職務は、市場調査名目で営業車に乗務させられていたものであって、実質的には、労組法二条但書一号が規定するような者ではなく、その者による労働組合の結成が、社会的非難を浴びるような地位にはなかった(部長職時代に接した債務者の機密事項を組合活動に使用するなどといった背信行為もない)。債務者の右主張は採り得ない。

3  債務者は、債権者松田が、「会社内の秩序維持を著しく乱すような宣伝扇動を行った」旨主張する。

しかしながら、債権者松田は、債権者組合を結成した翌日に解雇されており、管理職的地位を背景に不当な勧誘行為をするなどといった会社内の秩序維持を著しく乱すような宣伝扇動を行ったという事実の疎明はない。債権者松田が、表立った組合活動をし始めたのは解雇後である。債務者の右主張も採り得ない。

4  債務者は、債権者松田が、「従業員としてふさわしくない」あるいは「他人を教唆先導しその該当する行為をさせた」ものである旨主張するが、右主張も、前記2、3で検討したところに照らし採り得ない。

5  因に、債務者は、債権者組合が結成されたことで、全相労から、支配・介入であるとの抗議を受け、ユニオンショプ協定もあって、債権者らを解雇せざるを得ないような窮地に立たされた事実はあるが(〈証拠略〉)、その責めを債権者らに負わすことはできない。債権者組合は債務者の意を体して結成されたものではなく、むしろその禁忌するところであって、支配・介入でないことは明らかである。全相労においても、右事実は容易に知り得たはずであるが、同組合にとって、債権者組合の結成は自己の弱体化を招くものであり、拱手傍観し難いところから、その矛先が債務者に向けられたに過ぎないものである。いうほどに債務者と既存の労働組合の間の信頼関係が破壊されたとは思われない。

6  以上によると、債務者の主張はいずれも採用できないから、債権者松田の解雇はその余の点について判断するまでもなく無効である。

7  そこで次に、保全の必要性について検討する。

(一) 疎明資料(〈証拠略〉)によると、(1)債権者松田は、昭和一二年生まれで、妻と未成年の二人の子(八歳と六歳)の四人家族であるが、その生計は、同債権者の収入によって賄われてきたこと、(2)同債権者は、解雇前、月額五六万一六〇〇円の給与の支払を受けていたこと、(3)同債権者の現在の収入は、月額一二万円ないし一三万円であること。(4)預金は取り崩され、他にみるべき資産はないこと、(5)実兄から三五〇万円を借り受けていること、が一応認められる。

(二) 右事実のほか平均的家庭における標準的な家計支出等をも考え併せると、債権者松田に対しては、平成七年九月以降毎月三八万円の金員の仮払が必要であると一応認められる(同債権者が現在得ている収入を加えると、約五〇万円の生計費が確保されることになる)。

なお、過去分の仮払請求については、これを肯定するに足る事実の疎明がない(実兄からの三五〇万円の借財については、直ちに一括返済を要する旨の疎明が十分でないので、将来分の仮払額の算定に際し、考慮するにとどめた)。

(二)(ママ) 従業員たる地位の確定は、債権者らが加入していた健康保険・厚生年金の資格を継続するため必要であり、保全の必要性がある。

三  債権者伊藤について

1  債務者は、債権者伊藤が、(1)「社外から指弾を受ける行為をし、会社の信用を著しく失墜させた」、(2)「会社内の秩序維持を著しく乱すような宣伝扇動を行った」、(3)「会社内で許可なく組合活動をした」、(4)「従業員としてふさわしくない行為をした」あるいは「他人を教唆先導しその該当する行為をさせた」旨主張する。

(一) 確かに、債権者伊藤は、豊中営業所の次長兼課長であったものであるところ、債権者組合の結成に至る経緯は、前記二1のとおりであって、同債権者は、債権者組合の結成に主導的な役割を果たし、その執行副委員長を務めるものである。

しかしながら、疎明資料(〈証拠略〉)によると、債権者伊藤の課長としての職務は、乗務員の出勤や出庫の確認、入庫した乗務員の売上の確認、車両整備、事故処理、顧客からの苦情処理等のほか、運行状況についての指導、飲酒その他の理由により安全な運転をすることができない者のチェック等であり、次長としての職務は、所長の補佐、車両の審査、課長から上がってくる申請書の復申、課長のボーナスの査定であったと一応認められるが、その職務の大半は、機械的なものであり、その権限は、補助的、助言的要素が強く(この点は、他の一般企業の次長・課長職とかなり異なっている。)、同債権者が労組法二条但書一号が規定する地位にあったとはいい切れない。したがって、労働組合の結成に関わったことのみを理由とする解雇はいかなる意味においても不当である(前記一参照)。

(二) 債務者は、債権者伊藤が、債務者の許可を受けることなく、石橋営業所において、勤務時間中に全相労の組合員の吉崎正及び村上松人に対し、右組合からの脱退と債権者組合への加入を勧誘する等、再三にわたって不当な行為を繰り返した旨主張するが、疎明資料(〈証拠略〉)によると、債権者伊藤が、債務者の許可を受けることなく、同人らを勧誘した事実は一応認められるものの、右行為が行われたのは、勤務時間外であり、勧誘方法も、管理職的地位を背景にした会社の秩序を乱すような不当なものであったとはいい切れず、他に債務者のいう不当な勧誘行為が再三なされたという疎明はない(〈証拠略〉は、全くの伝聞であり、同債権者の弁解も聞かれておらず、〈証拠略〉に照らしても、採用し難い部分がある)。

右事実によると、たとえ債権者伊藤に全く非違行為がなかったとはいえないにしても、その程度は著しく背信的ではなく、懲戒解雇に値するようなものではない。

2  また、債務者は、債権者伊藤が、業務命令に反し、債務者内に立ち入りを禁じられていた債権者松田を豊中営業所の事務所内に引き入れた旨主張する。

しかしながら、疎明資料(〈証拠略〉)によると、債権者伊藤が、債権者松田と豊中営業所の事務室で言葉を交わしていた事実は一応認められるが、債権者伊藤が債権者松田を引き入れたとはいい切れない。

右事実によると、債権者伊藤には、速やかに債権者松田を退去させなかった点において落ち度はあるが、懲戒解雇に価するような非違行為があったわけでない。

3  以上によると、債務者の主張はいずれも採用できないから、債権者伊藤の解雇は無効である。

4  なお、債権者伊藤は、予備的解雇前の賃金の仮払を求めるものであるから、予備的主張については判断しない。

5  そこで次に、保全の必要性について検討する。

(一) 疎明資料(〈証拠略〉)によると、(1)債権者伊藤は、昭和三〇年生まれで、妻、未成年の二人の子(一歳と三歳)の四人家族であるが(経済的困窮が重なり、夫婦関係の不和から、別居中である。)、その生計は、同債権者の収入によって賄われてきたこと、(2)同債権者は、解雇前、月額約五五万円の給与の支払を受けていたこと、(3)同債権者の現在の収入は、月額二〇万円であるが、健康状態に著しく不安があること、(4)他にみるべき資産はないこと、(5)月々の生活は、親族の援助によって賄われてきたが、妻は七〇万円ないし八〇万円の借財を余儀なくされたこと、が一応認められる。

(二) 右事実のほか平均的家庭における標準的な家計支出等をも考え併せると、債権者伊藤に対しては、過去分の賃金のうち四五〇万円を仮払する必要があるものと一応認められる。

なお、過去分の仮払を認めたのは、これを否定すると、将来分の支払が認容される債権者松田と異なり、今後の生計維持が著しく困難であることを考慮したためである。

四  債権者佐藤について

1  債務者は、債権者佐藤についても、債権者伊藤とほぼ同様の解雇事由を主張する。

(一) 確かに、債権者佐藤は、運輸第二部第五課長であったものであるところ、債権者組合の結成に至る経緯は、前記二1のとおりであって、債権者組合の結成に主導的な役割を果たし、その執行副委員長を務めるものである。

しかしながら、疎明資料(〈証拠略〉)によると、債権者佐藤の課長としての職務は、前記二1(一)に説示のとおり、労組法二条但書一号が規定する地位にあったとはいい切れない。したがって、労働組合の結成に関わったことのみを理由とする解雇はいかなる意味においても不当である(前記一参照)。

(二) 債務者は、債権者佐藤が、債務者の許可を受けることなく、運輸部事務所等において、勤務時間中に全相労の組合員の餅田敏行や神谷功のほか多数の組合員に対し、右組合からの脱退と債権者組合への加入を勧誘する等、再三にわたって不当な行為を繰り返した旨主張する。

しかしながら、債権者佐藤は、右事実を否定するものであるところ(〈証拠略〉)、同債権者の非違行為を記した報告書(〈証拠略〉)には、債務者の主張にそう記載があるが、債権者組合に敵対する者の供述の伝聞であり、記載内容も頗る簡単で、同債権者の弁解を聞くなど真偽を確認した形跡もないうえ、債務者において報告書の提出を求めたところこれを断わられている経緯(〈証拠略〉)等に照らすと、債務者の主張の決め手とはなし難い(〈証拠略〉等も十分な裏付けを欠く伝聞であり、同様である)。

右事実によると、債務者の疎明は十分でなく(懲戒解雇を容認するためには、手続的にも実体的にも、今少し的確な証拠が必要である。)、債権者佐藤に非違行為があったとしても、その程度は著しく背信的ではなく、懲戒解雇に値するようなものではない。

2  以上によると、債務者の主張は採り難いから、債権者佐藤の解雇は無効である。

3  なお、債権者佐藤は、予備的解雇前の賃金の仮払を求めるものであるから、予備的主張については判断しない。

4  そこで次に、保全の必要性について検討する。

(一) 疎明資料(〈証拠略〉)によると、(1)債権者佐藤は、昭和二一年生まれで、未成年の子(小学四年生)との二人家族であるが、その生計は、同債権者の収入によって賄われてきたこと、(2)同債権者は、解雇前、月額約五〇万円の給与の支払を受けていたこと、(3)同債権者は体調を崩しており、現在収入がないこと、(4)他にみるべき資産はないこと、(5)月々の生活は、アルバイト収入と親族の援助によって賄われてきたことが、一応認められる。

(二) 右事実のほか平均的家庭における標準的な家計支出等をも考え併せると、債権者佐藤に対しては、過去分の賃金のうち三五〇万円を仮払する必要があるものと一応認められる。

なお、過去分の仮払を認めたのは、債権者伊藤と同様の理由である。

五  債権者竹田について

1  債務者は、債権者竹田についても、債権者伊藤とほぼ同様の解雇事由を主張する。

(一) 確かに、債権者竹田は、運輸第一部第一課長であったものであるところ、債権者組合の結成に至る経緯は、前記二1のとおりであって、債権者組合の結成に主導的な役割を果たし、その執行委員を務めるものである。

しかしながら、疎明資料(〈証拠略〉)によると、債権者竹田の課長としての職務は、前記二1(一)に説示のとおり、労組法二条但書一号が規定する地位にあったとはいい切れない。したがって、労働組合の結成に関わったことのみを理由とする解雇はいかなる意味においても不当である(前記一参照)。

(二) 債務者は、債権者竹田が、債務者の許可を受けることなく、運輸部事務所において、勤務時間中に全相労の組合員の高橋忠義に対し、右組合からの脱退と債権者組合への加入を勧誘する等、再三にわたって不当な行為を繰り返した旨主張する。

しかしながら、債権者竹田は、右事実を否定するものであるところ(〈証拠略〉)、同債権者の非違行為を記した報告書(〈証拠略〉)には、債務者の主張にそう記載があるが、既述のとおり、敵対する者の供述の伝聞であり、記載内容も頗る簡単で、同債権者の弁解を聞くなど真偽を確認した形跡もないうえ、債務者において報告書の提出を求めたところこれを断わられている経緯(〈証拠略〉)等に照らすと、債務者の主張の決め手とはなし難い(〈証拠略〉等も十分な裏付けを欠く伝聞であり、同様である)。

右事実によると、債務者の疎明は十分でなく(懲戒解雇を容認するためには、手続的にも実体的にも、今少し的確な証拠が必要である。)である。)(ママ)、債権者竹田に非違行為があったにしも(ママ)、その程度は著しく背信的ではなく、懲戒解雇に値するようなものではない。

2  以上によると、債務者の主張は採用できないから、債権者竹田の解雇は無効である。

3  なお、債権者竹田は、予備的解雇前の賃金の仮払を求めるものであるから、予備的主張については判断しない。

4  そこで次に、保全の必要性について検討する。

(一) 疎明資料(〈証拠略〉)によると、(1)債権者竹田は、昭和二二年生まれで、妻(パートタイマー)、長女(会社員・二一歳)、未成年の子(高校生)の四人家族であるが、その生計は、概ね同債権者の収入によって賄われてきたこと、(2)同債権者は、解雇前、月額約五〇万円の給与の支払を受けていたこと、(3)同債権者の現在の収入は二〇万円程度であること、(4)他にみるべき資産はないこと、(5)現在、約九八万円のカードローンの借財があること、が一応認められる。

(二) 右事実のほか平均的家庭における標準的な家計支出等をも考え併せると、債権者竹田に対しては、過去分の賃金のうち二〇〇万円を仮払する必要性があるものと一応認められる。

なお、過去分の賃金の仮払を認めたのは、債権者伊藤と同様の理由である。

六  債権者上室について

1  債務者は、債権者上室についても、他の債権者伊藤とほぼ同様の解雇事由を主張する。

(一) 確かに、債権者上室は、運輸第二部第一課長であったものであるところ、債権者組合の結成に至る経緯は、前記二1のとおりであって、債権者組合の結成に主導的な役割を果たし、その組合員である。

しかしながら、疎明資料(〈証拠略〉)によると、債権者上室の課長としての職務は、前記二1(一)に説示のとおり、労組法二条但書一号が規定する地位にあったとはいい切れない。したがって、労働組合の結成に関わったことのみを理由とする解雇はいかなる意味においても不当である(前記一参照)。

(二) 債務者は、債権者上室が、債務者の許可を受けることなく、債務者構内において、勤務時間中に全相労の組合員である田中幹雄に対し、右組合からの脱退と債権者組合への加入を勧誘し、更に、同事務所において、勤務時間中に、債権者松田と共に、全相労の組合員に対し、右組合に対する脱退届と債権者組合に対する加入届を配付する等、再三にわたって不当な行為を繰り返した旨主張する。

しかしながら、債権者上室は、右事実を否定するものであるところ(〈証拠略〉)、同債権者の非違行為を記した報告書(〈証拠略〉)には、債務者の主張にそう記載があるが、既述のとおり、敵対する者の供述の伝聞であり、記載内容も頗る簡単で、同債権者の弁解を聞くなど真偽を確認した形跡もないうえ、債務者において報告書の提出を求めたところこれを断わられている経緯(〈証拠略〉)等に照らすと、債務者の主張の決め手とはなし難い(〈証拠略〉等も十分な裏付けを欠く伝聞であり、同様である)。

右事実によると、債務者の疎明は十分でなく(懲戒解雇を容認するためには、手続的にも実体的にも、今少し的確な証拠が必要である。)、債権者上室に非違行為があったにしても、その程度は著しく背信的ではなく、懲戒解雇に値するようなものではない。

2  また、債務者は、債権者上室が、業務命令に反し、債権者松田が本社のガレージ内でビラを配付しているのを黙認した旨主張する。

しかしながら、疎明資料(〈証拠略〉)によると、債権者上室が、債権者松田のビラ配りの現場にいた事実は一応認められるが、同債権者は、債務者内に立ち入りを禁じられていた債権者松田を会社内に引き入れたとはいい切れない。

右事実によると、債権者上室は、速やかに債権者松田を退去させなかった点において落ち度があるとはいえ、懲戒解雇に価するような非違行為があったわけではない。

3  以上によると、債務者の主張はいずれも採用できないから、債権者上室の解雇は無効である。

4  そこで次に、保全の必要性について検討する。

(一) 疎明資料(〈証拠略〉)によると、(1)債権者上室は、昭和一九年生まれで、妻(会社員)、未成年の子(短大生)の三人家族であるが、その生計は、同債権者の収入と妻の月額一四万円の収入によって賄われてきたこと、(2)同債権者は、解雇前、月額約五〇万円の給与の支払を受けていたこと、(3)同債権者の現在の収入は一八万円ないし二五万円であるが、将来的には減収の可能性がかなりあること、(4)保険金の積立てを除くと、他にみるべき資産はないこと、(5)現在、長女の大学の授業料等の支払のため三〇〇万円の借財があること、が一応認められる。

(二) 右事実のほか平均的家庭における標準的な家計支出等をも考え併せると、債権者上室に対しては、平成七年九月以降毎月二五万円の金員の仮払が必要であると一応認められる(妻の収入と同債権者の現在の収入の半額が得られるならば、月額約五〇万円の生計費が確保されることになる)。

なお、過去分の仮払請求については、これを肯定するに足る事実の疎明がない(三〇〇万円の借財については、直ちに一括返済を要する旨の疎明が十分でないので、将来分の仮払額の算定に際し、考慮するにとどめた)。

(三) なお、従業員たる地位の確定は、債権者らが加入していた健康保険・厚生年金の資格を継続するために必要であり、保全の必要性がある。

七  結語

以上によると、本件申立ては、(1)債権者松田に対し、従業員たる地位の確認と平成七年九月から第一審判決の言渡しまで毎月二八日限り、三八万円の割合による金員の仮払、(2)債権者伊藤に対し、四五〇万円の仮払、(3)債権者佐藤に対し、三五〇万円の仮払、(4)債権者竹田に対し、二〇〇万円の仮払、(5)債権者上室に対し、従業員たる地位の確認と平成七年九月から第一審判決の言渡しまで毎月二八日限り、二五万円の割合による金員の仮払、を認める限度で理由があるから、事案の性質上、担保を立てさせないでこれを認容し、その余は理由がないからこれを却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 佐藤嘉彦)

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